
「ん?エースおまえ一人か、なまえはどうしたんだよい」
「あー?なんか知らねェけど、いねェよ。つーかなんでおれに聞いたんだよ」
時刻は夕方、食堂にて夕食を早めに食べる船員たちが、席を埋める時刻である。
いつも通り空いている席に腰掛けてたエースは、すぐに自分の後ろから声をかけられて振り向いた。その先には自分と方を並べる一番隊隊長の位置につくマルコが、自分の食器に夕飯を携えてたっていた。
「いや、なまえが船に乗ってからおまえ、それはもう気にかけてたじゃねえかよい」
「そりゃあ、おれが拾ってきたモンだからなァ」
今エースとマルコの話題にあがっているなまえは、つい最近とある港町から雑用として、白ひげ海賊団の船、モビーディック号に乗り込んでいた。いろいろな事情があったとはいえ、最初にこの船になまえを乗せたのはエースであった。から、エースは何かとなまえのことを気にかけていたのである。
「じゃあ何で一緒にいないんだよい?」
「んな…いつも一緒にいるわけじゃねぇし、なまえにもいろいろあるんだろ。ずっとついて回ってるのはプライバシーの侵害だ」
エースは自分の目の前にある皿を片端から片づけながらたんたんと言う。そのエースの様子にマルコは一瞬目を丸め、それからすこし含み笑いをしながら口を開いた。
「エース、おまえ、今クルーたちの間でおまえがなまえの何って言われてるか知ってるか?」
「あ?知らねェけど」
そもそも自分となまえのことが話題になっていたことさえ初耳であった。初めて聞く話題につい止まらなかった手が止まって耳を傾けてしまう。いけない、食べ続けないと時間内に食べ終わらない。口に含んだものを飲み込もうとジョッキを手に持って中に注いである水を一気に呷る。
「娘離れできない、お父さん」
エースは口に含んでいた水をすべて吐き出してしまった。
*
なまえは地平線に静かに沈んでいく夕日を、見張り台の中から見ていた。ついさっき自室をでて、いつも夕食を食べる前に来るようにといわれていたエースの部屋に行く際に、知り合いの一番隊隊員に見張りを変わってくれと頼まれたのだ。
見張りと言ってもこの白ひげの船に攻撃を仕掛けてくる船なんてそうそういないし、要はただそこに人がいればいいだけなのである。大した責務もないし、この仕事なら船に乗ったばかりのなまえでも易々とこなせる仕事であった。だから、断ることはせずにそのまま受け入れた。
エースの部屋に行ってみればエースはいなかったし、まあ、船で迷子になることはなまえにとってはありえないことだったので、そのままフォアマストへと向かった。
「…ちょっと冷えてきたかな」
薄い光の筋を出しながら沈んでいく夕日をみて、なまえはすこし周りの温度が下がったと感じる。急な頼まれごとだったので大した準備はしていなかった。どうしたものか。
交代要員が来ることを願ってみるが、たぶん、この任は今夜中の任のはずである。何せフォアマストの上に居るだけでいい任なのだから。
一回降りる?でも、もしそのとき何かあったら。そう考えを巡らせながらなるべく風が当たらないようにと壁側によって身を小さくしていたなまえに、後ろから毛布がかけられる。
「わ、エースさん」
後ろを振り向けば、なまえがこの船に乗ることになった発端の人物がいた。なまえはこの船に不本意でのったわけではなく、むしろ乗らなくては困る状況だったので、ものすごく感謝している存在である。出会いはひどいものであったが。
船に乗ってからも元々世話好きな性分なのか、何かとなまえに世話を焼いてくれていた。その人物が、なんだか不機嫌な様子でフォアマストに上ってきていた。
「ど、どうしたんですか?」
「…なんでこんなところにいるんだよ」
エースはどかっとなまえの横に腰を下ろす。いつもどおり前のはだけたシャツを見て、なまえははっとして自分の肩に掛けてあった毛布を半分かけようとする。
「いい。おれは暖けーから」
「あ、そうでしたね」
メラメラの実というものを食べてからエースは、自分から発熱することが可能である。なかなかなまえから素手で触れることはできないが、そばにいるだけでもその温もりが伝わってくる。エースには、こんな毛布、必要ないのだ。
つまり、この毛布は自分のために持ってきてくれたのだ。なまえは思わず頬を緩めそうになるが、不機嫌そうなエースの顔を見てすぐに不安な顔に戻す。
「えっと、どうしたんですか?」
「………」
エースはむすっと黙り込んでいる。なまえはなにも言わない、だけど立ち上がろうともしないエースを見て、なまえも何も言えずに黙り込んでしまった。
しばらく沈黙。のち、エースがはあっとため息をつく。
「おまえはおれをすぐ探せるからいーけどな、おれはおまえのことが探せねぇんだぞ。だから、なるべくどっか行くときはおれに言ってから行け」
成る程。なまえは接触感応能力者ゆえに、甲板や壁を触れば、人の位置や、ものの位置がだいたい把握できる。しかしそれはなまえだけの特権で、きっとエースはなまえのことを探し回ったのだろう。約1600人が乗船するこの船を探し回るのは、きっとすごい重労働である。
「でもあたし、船の上では迷いませんよ…?」
いいんだよ、おれが知っておきたいだけだから、といってそっぽを向いてしまった。
また黙りこくってしまったエースを見て不思議に思いつつも、なまえもそのまま従うように黙ってしまう。しかし今回はエースが口を開くのが先ほどより幾分か早かった。
「なあ」
急に声色が変わったエースのほうを見て、なまえはいつのまにか日が完全に沈んでいたことに気づいた。人に反射する光の加減を見ないと分からない。それくらいに星がキレイに瞬いて、照らしていた夜だったのだ。
「おれは、おまえの何なんだ?」
「…?えっと」
なまえはその質問の意図をはかりかねて、首を傾げて考えてしまう。
――何なんだろう、ただの白ひげのクルー、ではない。だけど大事な人と答えるのは恥ずかしすぎる。
「あ、兄のような…?ううん?ちょっと違うような…近所のお兄さんのような?んん?これもまた違うなあ…」
瞬間、エースは思いきり脱力して、右手て両目を覆った。エースのその反応に、未だ首を傾げ続けていたなまえは、何か悪いことを言ってしまったのかと不安になる。が、すぐにエースが左手でなまえの頭をなでた。
「まァ、お父さんよりは幾分マシか」
お父さんよりは、まだ望みは有りそうだし、とエースは心の中で笑ってから、まだ何もわからなそうに見上げるなまえの髪を、ちょっとした恨みを幾分かこめて、わざと乱すように撫でた。